医療法人のメリットデメリット
メリット
- 個人財産と法人経営が分離されるため、適正な医業経営の実践が可能となります。
院長先生の家計費は院長先生の役員報酬から賄われ、預金等は医療法人の運営のため利用される。いわゆる家計と経営の分離ができ、家計も経営も自らの資金繰り計画が立てやすくなります。
- 実効税率が小さくなります。
法人税率は約40%ですみ、個人時代の最高税率50%の重税から解放されます。
- 理事長家族への所得分散が容易になり、その分、節税ができます。
所得を分散することで、個々人の所得税・住民税の税率が下がり、結果的に理事長家族全体の所得が増えます。
法人の場合は、理事長先生をはじめ、 医院で実際に労働をしていない家族にも役員報酬を支給することが税務的に容易になります。
個人医院時代の専従者給与額より高い役員報酬額を従来の専従者に支給することができるため、いわゆる所得の分散が個人時代より効果的にできます。
もちろん、家族が役員として、医療法人の運営にかかわっていることが前提での役員報酬です。
理事長報酬に対しても「 給与所得控除」を受けることができるので、ここでも課税所得を少なくすることができます。
- 理事長先生に退職金を支払い、法人の損金として計上することができる。
支払った退職金は、受け取った方の所得になるが、退職金は退職所得控除を控除した金額の1/2が課税の対象になるうえ、分離課税のため、かなりの節税となります。
個人形態では院長が死亡されても税務上院長退職金は損金として支給できません。(経費に出来ません)
また、法人からの弔慰金も、月額役員報酬額の36ヶ月分もしくは6ヶ月分を法人経費として支給することができる。
受け取った遺族は、この範囲内の金額なら全額非課税で受け取ることができます。
- 生命保険料を損金に計上できる。
老後の生活費、相続税の原資を確保するために個人で契約している生命保険の保険料は、個人事業形態だと最高で10万円までしか所得控除が受けられません。(生命保険料控除)
しかし法人の場合、契約者=法人、被保険者=役員、保険金受取人=法人とすることにより全額法人が負担する契約を結ぶことが出来ます。
そのため、個人で支払っていた生命保険料がなくなり、個人の資金繰りがかなり楽になります。
また、定期保険(掛け捨て)の保険料は全額法人の損金となります。(部分的にしか経費にならない保険もあります)
最近は多種多様な保険商品が開発されて、様々なニーズに合わせて保険の有効活用ができます。
- 交際費や車両関係費に対する税務調査が緩和される。
個人時代のゴルフ代金は原則として認められないが、法人では交際費として取り扱うことができます。(もちろん法人としての活動の一環として)
また、個人時代に使用する車両関係費は10%~20%家計分として自己否認(個人使用分を経費にしない)しなければならないが、法人名義の車両は全額経費になります。
- 繰越損金の繰越が7年間認められる。
個人だと青色申告で3年間しか認められません。
- 相続対策がやりやすくなる。
病医院の事業用資産を後継者が継承する場合、多額の相続税を支払うことになることが多いが、医療法人が所有する財産は、出資金に化態しているので、出資金持分を後継者に移行することによって、事業用資産を少ない税金でバトンタッチさせることができます。
- 法人になると社会保険支払基金の源泉徴収がなくなる。
個人時代には社会保険支払基金から診療報酬のから支払額の約1割が源泉税として徴収されるのため、その分入金が少なくなっています。
医療法人になると源泉徴収がなくなり満額入金されるので、その分資金繰りが楽になります。
- 将来に後継者いなくても、個人病医院のように医療機関を閉院しなくて済む。
理事長の死亡や傷病により職務の継続が不可能になった場合でも、その子女が医学部に在学中又は卒業後、臨床研修などを終えるまで、医師でない配偶者等が理事長に一時的就任が可能になります。
- 別の医師に医療法人を譲渡することができる。
出資持分を買い取りたい医師に売却しても課税所得に対する税率20%と少ないので、ハッピーリタイアメントができる可能性が高まります。
デメリット
- 交際費の一部が損金不算入となる。
個人形態の場合、税務調査では個人的な経費であるか否かの厳しいチェックがあるが、事業に直接関係する交際費であれば全額経費になります。
しかし、医療法人の場合は全額を損金とすることはできません。
ただし、出資金が1億円未満の法人は、年400万円までのうち、90%の360万円まで損金算入が認められます。
- 社会保険加入の義務が発生し、負担が増加する
個人事業においては従業員が5人未満である場合、社会保険の加入の義務はない(強制加入の対象外)が、法人の場合においては従業員の人数に関係なく、強制加入の対象となります。
社会保険に加入するということは、法人に於いて従業員の社会保険料にかかる事業主分が負担増となります。
反面、優良な人材の確保がその分容易なることも考えられます。
ただし、個人事業でも従業員が5人以上であれば、医療保険業が強制適用業種に該当するので強制加入となることに注意が必要です。
ここがポイント!
医師の場合、個人事業であれば医師国保、歯科医師国保に加入できます。(存在しない都道府県もありますので、必ず加入できるとは限りません。)医師国保の場合、通常の国保と違い収入により保険料が上下することがありません。
保険料は、一人当たりいくらと定められていますので、通常の国保と比較して保険料が割安になることが多いです。
よって、現在医師国保に加入していない院長先生は、必ず加入できる医師国保がないかを確認してください。
なお、個人事業から法人成りして医療法人になる場合でも、個人時代に医師国保に加入している場合は、医療法人になった後でも、引き続き医師国保に加入することが出来ます。
医療法人になった後に、初めて医師国保に加入しようとしても認められませんので注意が必要です。
この場合は一般の会社と同様に、政府管掌の健康保険(社保)に加入することになります。
ですので、医療法人化を考えられている院長先生で、医師国保に入っていない先生は、医師国保に入った後に医療法人化した方が、保険料の節約になります。
なお、医療法人化した後の年金は、国民年金ではなく厚生年金になりますので、この点については一般の会社と変わりません。
- 法人のお金は、院長の自由にはならない。
理事長と医療法人は、人格が異なるため、理事長でも法人のお金を勝手に流用することはできません。
もし、個人の資金繰りのために医療法人から借りた場合には利息を付けて返済しなければならなくなります。
法人から見た場合、理事長が個人的に使ったお金は、貸付金若しくは役員賞与(経費にならない)と認識されます。
- 届書などの手続きが発生する。
設立手続き、決算後の届出・登記など、法人の場合は、面倒な届出等が発生する。
具体的には、定期的に社員総会を開催し、その議事録を作成し、決算事業年度終了後に決算の届出、及び、総資産の変更登記、並びに、変更登記にかかる官庁への届出が必要となる。
また、定款の記載事項に変更があった場合(例えば、診療所移転など)に、都道府県知事へ申請し、その許可を得なければならないなど、管理業務の負担が増加します。
- 配当の禁止によって持分評価額が増加する(出資額限度法人を除く)
医療法人は株式会社と違って、利益が出ても配当することが出来ません。
したがって、利益が医療法人に留保されるため、その分相続財産としての出資持分の評価額が大きくなりやすく、医療法人の出資金という換金性の低い相続財産が膨らみがちになります。
ただし、クリニックである医療法人の規模であれば、毎月の役員報酬や役員退職金などの支給額で、出資金が膨らまないようにコントロールすることは可能です。
現存する医療法人の大部分が、持分ありの医療法人ですので、出資金が大きくならないように早めの相続対策が必要です。
- 解散時のみなし配当所得課税
利益の内部留保が多くなっていった場合、解散時における配当所得課税が生じます。
ただし、解散時点までに余剰金を意図的にゼロになるまで減少させていけば(役員報酬の増加、役員退職金の支給など)、みなし配当所得を少なくすることは可能です。